芋けんぴ農場

自称芋けんぴソムリエが徒然なるままに感想や日々の雑感を記します。頭の整理と長い文章を書く練習です。

【日記】くるり 全国ツアー「線」に行ってきた

くるりの全国ツアー「線」に行ってきた。
長年の夢をひとつ叶えた。
くるりは、大学時代で出会ってから何度も何度も聴いた、私の青春を支えてくれたバンドだ。
すぐそこでくるりが演奏している、というのが信じられなかった。

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くるりの結成は1996年で、合間のMCでも20年活動していると触れられていた。
思えば作風も歌の内容も変わった。
ばらの花を作れたのはTEAM ROCKのときのくるりで、
当時の彼らがRemember meのあたたかさを持つこともないのだと思う。
くるりがそれぞれの人生のステージと共にしなやかに変化していくから、私も自分の人生を重ねたくなる。

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くるりの中では「東京」が一番好きだと言っていた、少しだけ好きだった、地方出身の知り合い

22号館で徹夜でレポートを書きながらニコ動で「ワンダーフォーゲル」を流し続けた夜

彼氏との約束に遅刻して「恋人の時計」が脳内を流れていた昼下がり

揺るがない幸せがただ、欲しいのですと「春風」を引用しながら気持ちを説明した大学の友人

「Jubilee」を聴きながら別れを噛み締めた3月

好きな人、好きだった人を思いながら繰り返し聴いた「ばらの花」

**

私はいま27歳。
本当にくるりを聴きながら過ごしたんだと実感した。
ここには書ききれなかったけれど、色んな曲が記憶の断片と共にある。

ライブの最中に、大学の頃から何となく地続きのようだった、フェーズの一区切りになるかもしれないと感じていた。

おこがましいが、くるりがその時々の音楽を作るのと同じように、私が今できること、今感じることはは今にしか存在しない。
大学の私は大学生なりの何かを得た。
今の私は今の私がやりたいことをやろう、今ありたい姿を一生懸命追い求めよう、過去も未来も関係なく、今欲しいものに正直になろうと思った。
そして私も自分を更新したい。くるりは今も昔もくるりの音がするし、ばらの花を円熟みを持って演奏する姿は美しさすら感じた。私にも転換が必要だ、自分を別のステージに押しやれる何かが…
そんな一抹の焦りを感じながら帰宅した。


これからも発表されるだろう名曲と一緒に格闘できるように。
頑張れ、わたし。

【映画】百瀬、こっちを向いて

 

 

 

Warning!   ネタばれを含みます!

 

 

 

 

「どうにもならないことってある」

そんなことは分かってるけど、私(たち)は実らない人を好きになってしまう。

 

 

主人公の相原もしくは百瀬の葛藤に共感するか、早見あかりんの美しい横顔を見つめるためだけの映画です。

 

 

***

主人公の相原と百瀬(早見あかり)は、百瀬と宮崎先輩が付き合っていいるという噂を消すために彼氏彼女の関係を偽装している。

しかし実のところ、百瀬は宮崎先輩が好きだし、宮崎先輩は神林先輩というマドンナと付き合っている(ことになっている)し、相原は関係を続けるうちに百瀬のことが好きになってしまうし…という話だ。

 

 

***

 

 

叶わない恋ってなんでこんなに不毛で残酷なんだろう。


経験値が上がるとか、時が経てば楽になるとか、後になれば真実だなと思う。
でも、渦中の本人としてはそんなこと本当にどうでもよくて、
ただ好きなひとと向かい合いたくて、
自分は好きなひとの好きなひとだと、
好きなひとを前にしたときに感じるもどかしさを、相手もまた感じていると確かめたくて、
この行き場のない苦しさを誰かどうにかしてくれ!と願いながらやり過ごす。

 

 

多分、百瀬が言うように、この世にはどうしようもできないことがたくさんあって、
私たちはそういう不条理をそのままに受け止めなければいけないのだ。
意味づけをするのは後でもいいから、苦しいことを苦しいものとして自分のなかに定義する。
無理になかったことにする必要もない。うわーん苦しいよって泣けばいい。
だから百瀬は葛藤を叫ぶ。大好きだと。馬鹿なひとだとわかってる。大嫌い、と。

 

 

劇中では強かに行動した者だけが結果をつかんでいるが、それは「レベル上げ」の賜物なのだろう。
でも、声を大にして言いたいのは、真剣に人と対峙した結果レベルが上がるのであり、
誰かのために別の人を使ってレベルを上げるのではない。
私には前者が相原で後者が百瀬に見えた。
皮肉にも百瀬は本件で苦しさを昇華し「大人」になるように見える一方で、
相原だけが高校時代にとらわれたまま成人するわけなのだが。

 

 

***

映画としての出来がとても良いわけではないと思う。映像は小刻みにゆれるし(ハンディで撮っているのだろうか?)、宮崎先輩と神林先輩の人物描写がやや少なく、二人のキャラ/思考回路がいまいち見えない。

だが、そんなことどうでもよくなるくらい、百瀬のやや向こう見ずなところも、相原の引っ込み思案も、高校生なりの若さの象徴のようでまぶしい。

そして何より早見あかりんが本当に美しくて、カメラがそっぽを向く彼女に近づくたびに、その髪に、手に、頬に、鼻に触れたいと思ってしまう。まるで彼女(早見あかりというより百瀬にである)に疑似・片思いをしているようだった。胸がつぶれる思いで「百瀬、こっちを向いて」と願った。

 

高校生の若さに戻りたいとは思わないけれど、等身大の気持ちを大切にしたいと思える映画だった。

 

★★★☆☆

【映画】シェイプ・オブ・ウォーター:完全無欠という「普通」への憧れと呪い

 

 

!!!Warning!!! 物語の核心部の描写を含みます!

 

 

 

 

仕事をしていると、「みんなは出来るのに自分だけできない」という場面に遭遇する。
なんでみんな軽々とこなしているのに私だけできないんだろう、
自分がトロいから、頭が悪いから、努力が足りないからだろうか…自分はとてつもなく劣っているのではないか…。
そんな思いに取り憑かれて追い詰められてしまうことがある。

 

「The Shape Of Water」は、上記のような息苦しさに対して差し当たりの回答を示す、現代の寓話であると感じた。

 

***

1950年代頃のアメリカ。
主人公のイライザは、幼少のころに喉についた(つけられた?)傷によって喋ることができない。
彼女は航空宇宙開発の研究所で清掃員の仕事をしているのだが、ある日、航空宇宙開発でソ連を出し抜く切り札として、研究所に半魚人が持ち込まれる。
半魚人の前では、自分に障害があるという特異性を忘れられることから、イライザは半魚人に興味を持ち、二人はやがて恋に落ちていく。
ある日、半魚人を生体解剖するという話を耳にし、イライザは彼を逃がそうと決意する。

 

***

映画を観て思ったのは、「普通の」「ちゃんとした」という線引きを突き詰めていくと誰も残らなくなるんだなということだ。

 

映画の舞台は、公民権運動前夜のアメリカ。
研究所で出世街道を昇るストリックランドとその上司以外の登場人物は、みんなどこか「普通」じゃない。
半魚人はもとより、主人公は話すことができないし、主人公の友達はアフリカ系の女性と失職中でゲイの絵描きだし、
主人公のアパートの階下で劇場を営んでいるのはフランスからの移民だ。


一方でストリックランドは「成功」の体現者たらんとしている。
白人で、軍で武勲をおさめ、研究所での責任ある仕事をし、綺麗な家、美人な奥さん、
絵にかいたような幸せなアメリカの家庭、キャデラック(アメリカの高級車)…
そんな主人公を前に、ストリックランドは言う。自分はお前より神に近い、と。

 

ここで言う「神」は、ストリックランドにとって完全無欠な存在の象徴である。
常に成功し、常にちゃんとしている。
その「ちゃんとしているかどうか」という線引きが妥当かどうかは彼にとっては重要ではない。
しかし、ストリックランドは半魚人の件で次第に窮地に立たされていく。
「普通」を突き詰めれば突き詰めるほど、ふるいにかかる人間は少なくなり、「普通じゃない」人のほうが多くなっていく。
言葉にすると当たり前のようだが、それでも彼は完璧を目指してしまうのだ。
彼は、半魚人によって噛まれた指が腐っていくのと時を同じくして、完全無欠な人などいないと理解するようになるわけだが、
最後、自分の負けを悟って完全無欠な神へのアンチテーゼとして半魚人に向かって問うのである。

「お前は神なのか?」と。

 

***

ストリックランドが、彼の旧来の価値観では「creature」でしかない存在を「神」と呼ぶほどの転換を迎えたのに対し、
主人公のイライザは最後まで旧態依然としている。


この映画のテーマを「異質な存在としての人間の受容」という言葉でまとめるとすると、
その受容には他者に対するものと自分に対するものがあり、彼女は最後まで「話せない自分の受容」には成功していないのだ。
彼女は自分の異質性を忘れられるから半魚人に惹かれたのに、
半魚人と別れる直前の妄想シーンでは、
「You'll never know how I love you...」と太く強い声で、しかも半魚人と手を取り合って踊っているのがなんとも切ない。
結局テレビに映ってた18歳のかわいい女の子になりたいんやん!劣等感忘れてないやん!

 

そんな彼女の救済の場所が水の中だ。
水は普通ではない自分へのすべての眼差しから解放される場所として描かれている。
そして、その水中世界は絵描きやゼルダが残った地上の世界とは隔絶している。
地上界がすなわち現代社会あるからにして、その「水の中の世界」が幸せなのかは我々にはわからない。
しかし、異質であることが普通ならば、いや、それが普通なはずだから、違うことを当たり前に受け入れる社会を作っていくべきなんじゃないか。
というメッセージを強く感じる作りになっていた。

 

***
最後に、多様性を受け入れられる社会を作っていくべき、という主張に対して、ストーリーが勧善懲悪的だったことが気になった。
ストリックランドは「悪役」として造形され、完全無欠とは程遠い姿にされて「倒される」。
人種や性別、職業で人を差別し、半魚人という異質性の象徴に対して暴力的であり、理想に見える家庭に対しても愛がない。
だが、白人で、五体満足で、それまでのキャリアで成功していて、云わば「超理想のアメリカ人」であるもかかわらず、
今回のたった一度の失敗によって、彼は普通という完璧さを追求することに疑問を抱き、二つの価値観の板挟みになる。
ストリックランドは、悪役でありながら、自分が誇りに思っていたものの根幹をひっくり返すような新しい価値観を受け入れるべきか揺らぎ、戸惑う。

ここで、多様性を保証するためには、多様性を拒否するという思想を排除しなければならないことを思い出す。この映画の主張どおり社会が本当に変容していくならば、彼の狭量な思想と行動は、悪として罰せられなければいけない。

しかし、それと同じくして、彼が苦しんだ状況もまた、自分が異質であるという思いと同様に普遍的になるのではないか。
この寓話がメッセージ性を持っているからこそ、ストリックランドには更生と救済が用意されていてほしかった。

(それとも、現代社会はそんな段階にはなく、まだまだ 悪と戦うフェーズだということだろうか?)

 

***


次に某大統領が失言でニュースになった暁にはこの映画を思い出すことでしょう。


★★★☆☆ 3.5

 

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【駄文】大学を卒業した

 

 

自分のために書いた、超個人的な雑感です。

 

先日、都内の某マンモス大学を卒業した。思い描いていたような華々しい大学生活では決してなかった。でも、それなりに満足している。それだけのことだけれど、大学生活について少し書こうと思う。

 

***

高校時代、英語がすごく得意だった。自分でも努力したと思うし、それが試験の成績として返ってくるのでとても自信になった。努力すれば結果は必ず返ってくるんだ、そして、その結果は、大抵の他人よりも優れたものであるのが当たり前だった。

 

でも、大学に入ったらその自信は砕け散るのね。

ちょとやそっとの努力では絶対に勝てないような人たち、を初めて見た。しかもそういう人たちが大勢いた、というのが衝撃だった。英語だけじゃない。専攻の経済学も、第二外国語も、サークルも…すべてを器用にこなす人もいたし、一点突破で何かに物凄く秀でた人もいたし、とにかく皆才能も自信も溢れているように見えて、私はあっという間に溺れた。

自分の世界はなんて狭かったのだろうと思ったし、中途半端な努力では上に挙げた人々と同じ土俵に立つこともできないだろう、と分かっているのに何も出来ずに時間だけが過ぎていくのがもどかしかった。

 

***

 

それからは一人でもがいて、とても苦しかった。

 

留学してみたり、途中放棄しかけた経済学をもう一度ちゃんとやろうと思って数学のゼミや基礎のクラスを取り直したり、いろいろあった。

経済学に関しては愛憎これ極まれり、といった感じで、学部に入ったころは理解できなさすぎて成績が底辺なのだが、少しずつ氷を融かすように、沢山の人の力を借りてちゃんと愛せるようになったと思う。学問を愛せるように、ってなんか変な表現だけど。

最後まで経済学にこだわったのは、ただ「出来ない自分」が受け入れがたく、情けなく思ったからなのだけど、それはつまり前述したような「すげー奴ら」と自分を比較し、彼らの才能を羨み、持たざる者として存在する自分を否定したかったからなのだと思う。

 

けれど学問とは不思議なもので、(語る資格が無いのは重々承知しているが、)次第に他人が云々よりも、自分が知らないことに対する焦りでいっぱいになり、それを過ぎると、焦りがある一方で「ここは前分からなかったところだけれど、今はわかる」というささやかな自信がついてきたのは大きな発見だった。

 

学生最後の1年間は、高校の時に経済学を志した原点となる問題意識に立ち返り、学生読書室に引きこもる日々を続けた。何をすればよいか分からないところから始めたため、自分の知識・研究のレベルの低さに帰り道で涙したことも一度や二度ではないが、次第に学問の大きな渦の中で、自分のやりたいことが明確に定義されていき、自分の理解の境界が見えるようになるのがたまらなく苦しく楽しかった。

そうして迎えた最後は、自分の歩みに対する嬉しさ、それでもまだ知るべきことが山とあることへの焦り、そしてすげー奴らへの尊敬で、やり場のなかった感情を収めることができたと思う。

(ちなみに、ささやかに論文の内容を作るところまでは終わったのだが、恥ずかしながら執筆する方が間に合わなかった。卒論は諸事情で昨年提出済みなので今年は書かずとも卒業してしまった。やらなくて良いと言えば良いのだが、気持ち悪いので社会人になってからもしばらく取り組むことになりそうだ。)

 

***

きっと、到底かなわないような「すげー奴ら」に沢山会うというのは私の人生のどこかに必要で、それを大学という場で経験できたことは幸せだったのだと考えている。

きっと、世界のすべてを知ることはできないし、世界の未知への焦りは一生続く。だから、自分の進歩をちゃんと認識できるようになったこと、その一方で世界の広さに謙虚になることは、大学生活で得た大きな成果だと思う。しかし、それと同じくらいに、私は「何者にもなれなさそうである」という事実を受け止める必要があったのだ。私はふつうの(それどころか、もしかしたら普通よりも若干劣った)人間だった。今までは世界が狭かったからそれが分からなかったけれど。

これについてはまだケリがつき切っていない感じがしなくもないが、とりあえず私は自分が思ったほど優秀ではなかったという事実を直視しようと思う。

私はとても頭がいいわけではないし、何か特別秀でたものを持っているわけでもない。でも、自分を必要以上に卑下することなくこの認識を持つことが出来たなら、私はまた”世界対私”の関係の中で自分の世界の境界を広げるべく、謙虚に努力できる気がする。

 

***

明日からは社会人になる。

社会、もしくは世界というものはきっと、大学などとは比べ物にならないほど広く、果てしないのだと思う。

きっと、これからも私はたくさんの「すげー奴ら」に出会い、(良い意味でも悪い意味でも)世界の広さに圧倒される日々が待っているのだろう。

上に書いたように、「(うまくいかなかったけど)私は頑張った」だなんてここに書き捨てて、過去は過去としてしまっておこうと思う。過去を振り返り、それにすがって生きるには私は若すぎる。

 

 

明日からは謙虚に新しい世界に挑戦することを銘とし、青臭いことを承知でアジカンの歌詞を引用して学生最後の日にピリオドを打とうと思う。

 

 此処に在ること

此処で見ること

そのすべては誰のもの

塞ぎ込むより

まだ見たことのないような景色があるよ

(中略)

 

路面 湿った雨のにおい

嗅覚で そう 未来を知る

電線の共鳴 風の道

聴覚で そう 現在に出会うよ

 

揺れる世界を越える情熱を

一瞬の邂逅を

告げるサヨナラを

永遠の漂流を

夢と現実を

旅の果てに僕は探すよ いつも

(ASIAN KANG-FU GENERATION トラベログ)

 

【映画】風立ちぬ

 

 

Warning!  ネタバレを含みます!

 

 

感想を書く気はなかったうえに、途中まで書いた記事がうまく保存されずに消えてしまって戦意喪失しているのだが、備忘録的に簡単に書く。

 

***

飛行機に憧れ、恋した少年・堀越二郎の話だ。

二郎は幼いころから飛行機が大好きだった。彼は飛行機を設計することを夢見て、東大を経て三菱重工業に入社する。失敗もあれど、彼は若くしてドイツ留学、設計チーフなどを次々と任される。会社のホープである。

一方、彼は会社の休暇中、軽井沢で菜穂子と再会する。彼女は、東大に入学するために上京していた最中に遭遇した関東大震災で、二郎が助けた女性だった。瞬く間に恋に落ちる二人。結婚の約束をして二郎は軽井沢を去るが、その時すでに菜穂子は結核を患っていた。

結核を治したい一心で、独り高原のサナトリウムで療養することを決めた菜穂子だが、二郎からの手紙を読んで、彼に会いたい一心で二郎のもとに来てしまう。そこで正式に結婚する二人だが、二郎は会社の期待を一身に背負い、仕事で多忙を極めていた。

そして、菜穂子はいよいよ結核が進行していることを悟り、誰にも告げずにまたサナトリウムに独り戻ってしまう…。

 

***

 

この映画ね、途中まですごく好きなんですよ。

これが公開された時に、当時のサークルの先輩が

菜穂子のことが心配で仕方なく涙してしまいながらも、飛行機への憧れから仕事をする手を止められない二郎が美しいと思った。

というようなことを言っていて、なるほど確かにそうだなあと思いながら観ていた。好きで好きで仕方ないことを持つ幸せというか、そういったことへの憧憬が私にはあって、純粋に二郎のことが羨ましいと思った。

 

でも、それはある種の呪いでもある。

貧乏な国が飛行機を持ちたがる。矛盾だ。

という、同僚である本庄の言葉に表されるように、この映画には確かにいくつかの葛藤が埋め込まれている。

その最たるものが菜穂子さんだろう。彼女を愛しているけれども、飛行機のことがあるから傍にいてやれない。そして彼女と共にサナトリウムに行くこともできない。

彼にとって飛行機は唯一絶対の存在であり、恐れずに言ってしまえば菜穂子さんよりも断然飛行機の方が大事なのだよね。それは、菜穂子さんが可哀想だと妹になじられたとき、

僕たちは一日いちにちを大切に生きているんだ。

と返した二郎の台詞によく出ている。菜穂子さんが一日でも多く生き延びることよりも、今ここでしか出来ない飛行機の設計をしながら、菜穂子さんと一緒に暮らす方がいいということ。

 

***

 

ここまでならまだ良かったのだが、最大のモヤモヤポイントになっているのが最後の「ありがとう」だ。

創造的寿命の10年が過ぎ、終わってみれば、自分の作った飛行機は国を亡ぼし、戦争の道具になっただけだった。愛した人も死んでしまった。

このような状況で、彼は菜穂子による赦しを得てワンテンポ置いて「ありがとう」と返す。好奇心のある限り作り続けねばならない。命ある限り生き続けなければならない…というメッセージだろう。(これを引退作で言うということは監督自身へのブーメランにならないのだろうか?)

 

これは私のものすごいエゴなのだが、私は二郎にはもっと悩んでほしかったのだ。自分の夢、憧れ、それらを実現した一方で、彼はちゃんと自分のしていることへの矛盾に気づいていた。そして、いつかその代償を払う日が来ることもわかっていた。(これを表すのがトーマス・マンの『魔の山』のくだりだ。)

そのような葛藤を全部抱えたままラストに突入したのだから、それを菜穂子さんのたった一言で解決・救済してほしくなかった。自分はなんと多くのものを犠牲にしたのだろう、そして何より、彼女の赦しを受け入れていいのだろうか?と、もっとドロドロに悩んで涙して苦悩してほしかった。

 

そう思うのは、私が才能を持たない側の人間であり、いつもいつも取り憑かれたようになってしまうほど好きなものも無い人間だからなのかもしれない。

そういう「何か」がある人にとっては、こんな悩みなど考えるに及ばず、粛々と「壮大な事業」を成し遂げていくだけなのかもしれない。

 

***

 

ここまで思い至ったとき、アレ?デジャヴだな?と思った。

そう、これは『夜間飛行』だ。

監督が飛行機マニアであることからして、サンテグジュペリを愛好していることは想像に難くない。そして、夜間飛行ではないが、『人間の土地』に関しては表紙絵まで描いている。

才能・夢、そして生活。どうやらこの二者は両立しないのかもしれない…関係ないことと分かってはいるのだが、仄かな絶望を感じながら筆をおくことにする。

 

 

湧き上がる情熱に敬意を表して

☆☆☆

 

 

 

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【映画】ノッティングヒルの恋人

 

 

Warning!  ネタバレを含みます!

 

 

なんかバレンタインデーらしいのでノリで観てみた。感想もノリで書くぞー

 

イギリス留学していた時、日本人にとってのジブリというか、みんな観ていたり、ある程度粗筋や有名なシーンを知っていて当たり前な映画がイギリス人にとってもあることに気付いた。具体的には、ディズニー映画全般(特にライオンキング)、スターウォーズ、ラブアクチュアリー、ヒッチハイカーズガイド(The Hitchhiker's Guide to the Galaxy)、そしてこのノッティングヒルの恋人、あたりではないだろうか。

 

有名なので説明するまでもないかもしれないが、ジュリア・ロバーツ演じる大女優であるアナ・スコットが、イギリスの冴えない本屋の主人と恋に落ちる話だ。

この映画と言えば!なシーンが、家のドアを開けたら取材陣が蠢いていて写真を撮られまくる場面だろう。それだけ知っていて視聴し始めたのだが、最初から最後まで違和感しかなかったぞ!

***

 

まず、大女優が本屋の店主に一目ぼれ?していきなりキスして帰っていくところ。

どんだけ軽いねーん!!!と突っ込みたくなった。というか突っ込んだ。

でもまあ、遊ばれてるのかなって思うじゃないですか。フィクションとか置いといて現実的に考えるならば。しかし、その後、アナが本気っぽい感じでデートし始める。

一方、ヒュー・グラント演じる本屋の主人であるウィルは、この時点ではまだ信じられない感じが良く出ていて好印象だった。彼のおかげでこの映画の脚本の不自然さがだいぶんほぐれていると言っていい。

ただ、アナにキスされまくっているうちに本気になっちゃうんだよね。

 

で、アナに彼氏がいたことが発覚するんだよね笑

ほれみろ!みたいな笑 現地妻ならぬ現地彼氏だったわけでした(失敬)

傷心のウィルは、合コン?見合い?をしまくるんだけど、やっぱりアナのことが忘れられない。「出会いは奇跡だよ!」なんつて。

 

そこに、またアナがやってくる。昔のヌード写真をばら撒かれて傷つき、また、マスコミからの逃げ場としてウィルの家を選んだのだ。ザ・都合のいい男!

そこで、またグレーな空気が流れた後に、ついに関係を持ってしまう。その翌朝、ウィルが玄関のドアを開けた瞬間にパパラッチ、その後アナも無邪気に(?)ドアを開けてパパラッチ、錯乱したアナはウィルに罵声を浴びせて去っていく。

ここから先の細かいところはまあ観てください、ということにしておこう。

***

 

全体として思ったのは、コレは男の人版少女漫画なのかな?ってこと。

ある日突然、めっちゃ綺麗な人が自分が好きであるかのような行動をしてくる。キスとかキスとかキスとか。

実際、そんなうまくはいかなくて、途中相手に彼氏が居ることが発覚したり、パパラッチされたり云々するんだけど、それでもアナはやっぱり一途にウィルのことを想っている。そして最後にようやくウィルに関係を決める選択権が回ってくる。

これ、男女逆転させたら少女漫画でよくあるやつだよね?身分違いの恋、身分が上でしかも超絶ハンサムな相手からの求愛、相手の恋愛がらみのハプニング、身分違いについての社会的バッシング、求愛アンド求愛、好きかもしれない、行き違い、そして最後には自分に選択権が与えられる…という。(ぱっと思いついた限りだと、漫画『姉の結婚』がかなり近い構図だと思う。)

これはつまり、男の人もこういう、「求められて困っちゃった末に相手を選ぶ」という乙女的展開を望んでいることを意味するのだろうか?というのも、この映画は脚本的に女(アナ)には感情移入できないようになっている。全編を通してウィルの視点でしか語られていないから、アナの振る舞いは(少なくとも私から見ると)とても自分勝手に映るのだ。それでもこの映画がウケるのは、「いいなあ、こんな恋愛できたらなあ」って思っているから…としか説明がつかないのである。

***

 

まあ、たまにはこういう話もいいかもね、フィクションだし()

しかし、この非現実感とは裏腹に、映画としてはコンパクトで、ずっと画面に引きつけられた。あまり難しい伏線を張らず、多くの人が素直に解釈できるまっすぐな表現の心地よさのせいもあるかもしれない。

でも、やっぱり最後に言いたい。

 

何もしないのに理想ななめ上の相手に好かれるなんて、そんな都合の良い話ありませんからーー!!!

 

 

☆☆☆

 

 

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【駄文】2014年に読んだ・観た作品リスト

ガキつかと紅白観ながら書いてるよ!

一応このブログは自分の振り返り用なので、2014年に挑戦した作品を書き出してみた。思ったより映画が多い。漫画も巻数書いていないから少ないように見えるけど、結構多い。そして本が現代ものばっかりだなあ笑 

(未)ってやつはかじり始めたけど挫折したやつとか、まだ観終わってない/最新刊やレンタルできる最新話まで目を通さぬまま止まっているやつです。

来年はもっと古典や文学に挑戦したいなあ、来年も当ブログを宜しくお願いします!

 

<映画>

・the Usual Suspects

アナと雪の女王

ガタカ

・華麗なるグレートギャッツビー

・そして父になる

言の葉の庭

Ghost in the Shell 

・あの頃ペニーレインと

・マイノリティリポート

・LIFE!

るろうに剣心

・アダムスファミリー

・バルフィ!人生に唄えば

・サイコ

カポーティ

・Groundhog Day

・卒業

・独裁者(未)

<本>

肩ごしの恋人唯川恵

・ウエハースの恋人/江國香織

・レイヤー化する世界/佐々木俊尚

TSUGUMIよしもとばなな

・野心のすすめ/林真理子

・桐島部活やめるってよ/朝井リョウ

・友情/武者小路実篤

・身分差別社会の真実/斎藤洋一, 大石慎三郎

・破戒/島崎藤村

・Poor Economics/ Banerjee, Duflo(未)

金閣寺太宰治(未)

包帯クラブ天童荒太

・世界は宗教で動いている/橋爪大三郎(未)

・告白/湊かなえ

・夜間飛行/サンテグジュペリ

・the Catcher in the Rye /J.D. Salinger

・The Black Swan /Nassim Nicholas Taleb(未)

<漫画>

めぞん一刻高橋留美子

失恋ショコラティエ水城せとな

坂道のアポロン小玉ユキ

姉の結婚/西とうこ

・午前三時の危険地帯/ねむようこ

・トラップホール/ねむようこ

となりの関くん森繁拓真(未)

よつばと!あずまきよひこ(未)

進撃の巨人/諌山創

関根くんの恋河内遙

・東京喰種/石田スイ(未)

ジョジョの奇妙な冒険荒木飛呂彦(未)

バカボンド井上雄彦(未)

・四月は君の嘘/新川直司(未)

・聲の形/大今良時(未)

<アニメ>

攻殻機動隊 Stand Alone Complex, 2nd GIG

サイコパス(未)

・鬼灯の冷徹(未)

・残響のテロル(未)