芋けんぴ農場

自称芋けんぴソムリエが徒然なるままに感想や日々の雑感を記します。頭の整理と長い文章を書く練習です。

【映画】風立ちぬ

 

 

Warning!  ネタバレを含みます!

 

 

感想を書く気はなかったうえに、途中まで書いた記事がうまく保存されずに消えてしまって戦意喪失しているのだが、備忘録的に簡単に書く。

 

***

飛行機に憧れ、恋した少年・堀越二郎の話だ。

二郎は幼いころから飛行機が大好きだった。彼は飛行機を設計することを夢見て、東大を経て三菱重工業に入社する。失敗もあれど、彼は若くしてドイツ留学、設計チーフなどを次々と任される。会社のホープである。

一方、彼は会社の休暇中、軽井沢で菜穂子と再会する。彼女は、東大に入学するために上京していた最中に遭遇した関東大震災で、二郎が助けた女性だった。瞬く間に恋に落ちる二人。結婚の約束をして二郎は軽井沢を去るが、その時すでに菜穂子は結核を患っていた。

結核を治したい一心で、独り高原のサナトリウムで療養することを決めた菜穂子だが、二郎からの手紙を読んで、彼に会いたい一心で二郎のもとに来てしまう。そこで正式に結婚する二人だが、二郎は会社の期待を一身に背負い、仕事で多忙を極めていた。

そして、菜穂子はいよいよ結核が進行していることを悟り、誰にも告げずにまたサナトリウムに独り戻ってしまう…。

 

***

 

この映画ね、途中まですごく好きなんですよ。

これが公開された時に、当時のサークルの先輩が

菜穂子のことが心配で仕方なく涙してしまいながらも、飛行機への憧れから仕事をする手を止められない二郎が美しいと思った。

というようなことを言っていて、なるほど確かにそうだなあと思いながら観ていた。好きで好きで仕方ないことを持つ幸せというか、そういったことへの憧憬が私にはあって、純粋に二郎のことが羨ましいと思った。

 

でも、それはある種の呪いでもある。

貧乏な国が飛行機を持ちたがる。矛盾だ。

という、同僚である本庄の言葉に表されるように、この映画には確かにいくつかの葛藤が埋め込まれている。

その最たるものが菜穂子さんだろう。彼女を愛しているけれども、飛行機のことがあるから傍にいてやれない。そして彼女と共にサナトリウムに行くこともできない。

彼にとって飛行機は唯一絶対の存在であり、恐れずに言ってしまえば菜穂子さんよりも断然飛行機の方が大事なのだよね。それは、菜穂子さんが可哀想だと妹になじられたとき、

僕たちは一日いちにちを大切に生きているんだ。

と返した二郎の台詞によく出ている。菜穂子さんが一日でも多く生き延びることよりも、今ここでしか出来ない飛行機の設計をしながら、菜穂子さんと一緒に暮らす方がいいということ。

 

***

 

ここまでならまだ良かったのだが、最大のモヤモヤポイントになっているのが最後の「ありがとう」だ。

創造的寿命の10年が過ぎ、終わってみれば、自分の作った飛行機は国を亡ぼし、戦争の道具になっただけだった。愛した人も死んでしまった。

このような状況で、彼は菜穂子による赦しを得てワンテンポ置いて「ありがとう」と返す。好奇心のある限り作り続けねばならない。命ある限り生き続けなければならない…というメッセージだろう。(これを引退作で言うということは監督自身へのブーメランにならないのだろうか?)

 

これは私のものすごいエゴなのだが、私は二郎にはもっと悩んでほしかったのだ。自分の夢、憧れ、それらを実現した一方で、彼はちゃんと自分のしていることへの矛盾に気づいていた。そして、いつかその代償を払う日が来ることもわかっていた。(これを表すのがトーマス・マンの『魔の山』のくだりだ。)

そのような葛藤を全部抱えたままラストに突入したのだから、それを菜穂子さんのたった一言で解決・救済してほしくなかった。自分はなんと多くのものを犠牲にしたのだろう、そして何より、彼女の赦しを受け入れていいのだろうか?と、もっとドロドロに悩んで涙して苦悩してほしかった。

 

そう思うのは、私が才能を持たない側の人間であり、いつもいつも取り憑かれたようになってしまうほど好きなものも無い人間だからなのかもしれない。

そういう「何か」がある人にとっては、こんな悩みなど考えるに及ばず、粛々と「壮大な事業」を成し遂げていくだけなのかもしれない。

 

***

 

ここまで思い至ったとき、アレ?デジャヴだな?と思った。

そう、これは『夜間飛行』だ。

監督が飛行機マニアであることからして、サンテグジュペリを愛好していることは想像に難くない。そして、夜間飛行ではないが、『人間の土地』に関しては表紙絵まで描いている。

才能・夢、そして生活。どうやらこの二者は両立しないのかもしれない…関係ないことと分かってはいるのだが、仄かな絶望を感じながら筆をおくことにする。

 

 

湧き上がる情熱に敬意を表して

☆☆☆

 

 

 

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