芋けんぴ農場

自称芋けんぴソムリエが徒然なるままに感想や日々の雑感を記します。頭の整理と長い文章を書く練習です。

【映画】卒業

 

 

 

Warning!  ネタバレを含みます!

 

 

 

I want to be ...... different.

 

主人公のベンジャミンは成績優秀、いくつかの部活でリーダーを務めるなど、将来を期待されて大学を卒業した。

でも卒業後、家に戻る途中から彼は鬱々としている。この時の彼の心情を端的に表したのが上の台詞だ。周囲の人は自分はすごいと言う。そんなの上辺のお世辞だ。自分の人生それでいいんだっけ?

そんな時、彼の卒業祝いのパーティーで、彼は親の会社の共同経営者の妻、ロビンソン夫人に半ば陥れられるようにして関係を持ってしまう。ずるずると関係を続けるベンジャミンだが、何も知らない親から彼女の娘のエレインとデートしてくるように勧められ、渋々出かけてみると、あっさり彼女と恋に落ちてしまう…

 

***

 

この映画のタイトルである「卒業」は、世間体だけを頼りにする受動的な人生からの卒業であるように思われる。だから、この映画で重要なのは「決断」だ。しかし、幸せな形で「卒業」するのは主人公のベンジャミンとエレインだけだ。

 

冒頭で紹介した通り、ベンジャミンは大学を卒業した後、毎日悶々と過ごしている。大学院に進学することを勧められても断り、不倫する以外は何もすることが無い、まさにニートである。彼はおそらく、世間の評価を最優先させて大学まで生きてきた。だが、それに疑問を感じて身動きが取れなくなったために、積極的に選ぶことをしなければ、積極的に断ることもない。だからずるずると、会話する話題もないおばs…いや、淑女(熟女?)との不倫を続けてしまうのだ。しかし、母親と関係を持ったことをエレインに告白したことで、母娘双方との関係を壊してしまったあと、彼はエレインが好きな気持ちだけを頼りに、彼女と結婚するために彼女の大学まで追っかけることを決める。そのことをベンジャミン父に報告した時の会話がこうだ;

父;Ben, this whole idea sounds pretty half baked.

べ;No, it's not. It's completely baked. It's a decision I made.

 

この瞬間が彼の「卒業」である。これは、彼が自分で決めたことだから「生焼け」ではないのだ。これ以降、彼は彼女と結婚するために必死で行動する。客観的に見ればただのストーカーなのだが。

 

一方、エレインは大学で医学部生の彼氏を作り、最初ベンジャミンが大学に来たことを知った時にはかなり鬱陶しげである。

しかし、彼女自身も非常に揺れていて、母をレイプしたらしい男(ロビンソン夫人は不倫のことを、ベンジャミンにレイプされたとして家族に説明した)をまだ好きな自分との決着がつかずにいる。しかし、最後の最後で、自分の名前を叫び続けるベンジャミンの姿を見て決心するのである。その直前に出てくる、彼女の母、父、医学部生の彼氏が彼女に鬼の形相で叫んでいるシーンは、彼女に世間体を守ることを強いるしがらみの象徴のようだ。自分に向けて怒鳴りまくる3人を見て、彼女は世間体ではなく自分の心が向く方を選択することを決め、彼女も「卒業」する。

 

だが、一人「卒業」出来なかった人がいる。ロビンソン夫人だ。

彼女は夫への愛情はとっくの昔に無くしているように見える。エレインを身ごもってしまったから仕方なく結婚し、仕方なく今まで一緒にいただけだ。

そんな彼女が初めて(?)決断したのがこの不倫だったわけだが、ベンジャミンが彼女との不倫を娘(エレイン)に告白したことで、彼女は今まで自分が守ってきた夫との関係も、今回決断して得たもの(ベンジャミン)も失うことを悟る。そしてベンジャミンとの縁を切り、逆に彼と娘の恋路を邪魔しようとする。

最後のシーンで、ベンジャミンが結婚するためにエレインの前に現れた時、彼女は最初は余裕な風である。エレインは自分のように世間体を優先させると思っているからだ。しかし、エレインがそうしないとわかると取り乱し、最後は娘にビンタを浴びせて叫ぶ。

ロビンソン夫人;It's too late!

それに対するエレインの返しが痛快だ。

エレイン;Not for me!

もちろん、これはNot for me, (but for you)!ということだろう。彼女は母親が世間的価値観に縛られているのも、そうする他にないほどに年を重ねてしまったのも知っているから、自分はまだ間に合うんだ!と叫んで母親と決別するのだ。

 

(本題からはずれるが、この母にしてこの娘ありというか、、恋人がいながらベンジャミンとキスするエレインもエレインだ…大体母親と不倫してた男を選びます?)

 

*****

こうして概ねハッピーエンドなのだが、この映画の主張に対してはなんだかな、もっと楽に生きても良いんじゃないかな、と思ってしまう。

おそらく、作り手としても、こうして世間体を守ることを否定して生きることは幸せいっぱいなことではない、と認識している。その証拠に、ラストシーンでバスに乗る二人はどこか諦めたような、少し寂しい顔をしている。

世間体を徹底して否定しながら生きると、その分摩擦も大きくなって孤立しかねないと思う。この映画の二人のように0か100ではなくて、一部世間の価値観も取り入れながら、譲れないところだけ無視する方がずっと楽なんじゃないかな。はっきり否定することだけが偉いんじゃなくて、表面的には態度を保留しながら、自分の中では絶対に認めないとか、何らかの形で自分で折り合いをつけたほうが、周りの人の助けを得やすくなるのは事実だと思う。

最近よく思うのだけど、平凡な生活も、簡単に何かの拍子にうまくいかなくなる。だから、ある種の保険として、(それに人間関係にそんなに潔癖にならなければいけない理由なんかないわけだし)薄くでも良いから周囲との関係を温存しておくのは悪いことではない。映画としては地味だから取れない選択だとは思うけど、派手に反発すること=能動的に生きること、ではないことを知るべきだ。

 

***

そういう青臭いというか、今にも崩れてしまいそうな価値観を、ダスティンホフマンがよく演じていたと思う。特に、前半の悶々としているシーンでは文字通り死んだ魚の目、エレインにスイッチが入ってからは本当にエレインのことしか考えてない目をしていて面白かった。

また、Simon & GarfunkelのThe Sound of Scilence, Scarborough Fairがそういう言いようのない不安をよく醸していてとても印象深かった。

 

人生哲学的な何かを得るというよりも、劇中人物たちの若さを楽しむ映画なのだと思う。

ちょっと字幕の翻訳が雑なのが気になったよ。

 

 

☆☆☆

 

 

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