芋けんぴ農場

自称芋けんぴソムリエが徒然なるままに感想や日々の雑感を記します。頭の整理と長い文章を書く練習です。

【映画】バルフィ!人生に唄えば

 

 

Warning!  ネタバレを含みます!

 

  

心は言葉より重い。

この主題を繰り返し、主人公のバルフィのような率直さで描いた映画だ。

 

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バルフィは耳が聴こえず、話すこともできない。しかし、彼は自分の気持ちを迷いなく伝える。全身で表情し、瞬く間に見る者の感情をさらってしまう。

シュルティもその一人だった。彼女は資産家の美しい娘で、バルフィの猛アプローチに次第に心が傾いていく。しかし、バルフィとデートを重ねる間も、彼女は婚約を破棄することができない。バルフィには両想いであることを示しながら、婚約者との関係も切らない彼女に彼は激怒し、彼女の元を去ってしまう。

そしてシュルティはバルフィに未練たらたらのまま結婚。一方、父親が急病に倒れ、金策に困ったバルフィは父の元雇い主の家の娘・ジルミルを誘拐して身代金を請求することを思いつくのだが、幸か不幸か別の何者かに誘拐された彼女に偶然出くわす。時すでに遅しで父親が亡くなってしまったことから、バルフィはそのままジルミルと旅に出る。彼女は自閉症であり、最初はバルフィを恐がっていたが、次第にバルフィの朗らかさに惹かれ、恋仲になっていく。

旅の途中で偶然シュルティに会った際にジルミルが彼女にやきもちを焼いたところから、ジルミルは失踪する。失意に沈むバルフィを支えようと、シュルティは結婚生活を捨てて彼に寄り添うが、バルフィの気持ちが彼女に向くことは無かった。

結局、ジルミルは親類が経営する施設で暮らしていることが分かり、バルフィは彼女を訪ねて彼女の気持ちを確かめ、二人は文字通り死ぬまで幸せに暮らした。

 

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言葉が聴こえず、話すこともできないバルフィが何より信用したのは、相手の態度である。それはシュルティとジルミルに拘わらず、友達でも同じだ。

この映画では、言葉は仮初めの態度、心は本心や無垢な心情の象徴としてそれぞれの単語が使われており、「言葉」も「心」も日本語の意味とは100%一致しないように思われる。確かに最初の方は特に、バルフィには言葉が聴こえないということが問題にされるのだが、結局肝心なのはそれを示せるかどうか、という一点にかかっているからだ。もしかしたら翻訳の問題があるのかもしれない。

 

とにかく、この「態度/心こそが大事なのだ」というメッセージを象徴している思われるのが、電燈のシーンである。

バルフィは、電燈が倒れるすぐそばでそれを見守るという肝試しをしていた。相手は自分を信頼して、最後までひとり逃げずにおれるか、すなわちどれ程強い絆で結ばれているか、というのを試すためである。

映画冒頭で映った友達も、シュルティも逃げた。でも、ジルミルは逃げなかった。バルフィはきっと、あの瞬間からジルミルに一生を捧げることを誓ったのだろう。

 

彼にはどんな飾った言葉も通じない。だからこそ、彼はこの「試練」をクリアしたジルミルを選んだのだ。電燈が倒れてくるときにシュルティが手を放してしまったのは、婚約者と結婚することを選んでバルフィの元を去ることになる予兆だったのである。

 

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ところで、この映画にはいくつかの映画のオマージュと思われるものが存在している。タイトルが『雨に唄えば』を意識しているのはもちろんのこと、劇中音楽や、シュルティとバルフィが自転車に乗るシーンは『アメリ』を、物語の最後の、病院でのバルフィとジルミルのシーンは『きみに読む物語』のオマージュなのは間違いない。

しかしながら、この映画で表されたリスペクトとは相いれず、筆者は『きみに読む物語』があまり好きではない。その最大の理由は、三角関係で敗れる側の人間が悪者扱いされている点だ。現実がそんなに単純なら誰も苦労しないし、悪者だって愛していた人に捨てられたら悲しい、その悲しみはすべて無視して二人でハッピーエンドで良いのかい?と言いたくなるのだ。

その点、この映画では、バルフィ、シュルティ、ジルミルの三人の間に悪者がおらず、最後にジルミルとバルフィが幸せな生活を送る様子がシュルティ視点で語られていることにとても親切さを感じた。前述のように、より現実に起こりうる感情や論理に合わせて物語の落としどころがつけられているからだ。具体的には、シュルティが、正直ジルミルが失踪して少し喜んでいる自分がいました、と告白していること、そしてそれに乗じてバルフィについていったが上手くいかなかったこと、しかし最後はバルフィのパートナーはジルミルなのだと認めること、そしてその後の人生は聴覚障碍者学校の教師として過ごすことなどである。

 

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シュルティは言う。「もっと自分の心にしたがっていればよかった、私が間違っていた」と。

確かに結果だけ見れば、彼女は元彼に未練がありすぎて夫から家を追い出されたうえ、その元彼にも相手にされなかった「負け犬」(とでも言えばいいのだろうか)である。

でも、彼女は惨めな負け犬ではない。私は、彼女が一番、人間くさい愛にあふれた人だと感じた。皮肉にも、「心に従い」「無垢な心で相手を思いやる」というバルフィとジルミルの在り方を手に入れた結果、彼女は二人の結婚を後押しするほかはなかった。でも、彼女はそんなスタンスを捨てるという決断だってできたはずだ。その時、自分の好きな人が別の人を選ぶ瞬間を自分の意志で後押しできるだろうか。この葛藤の泥臭さに、私は共感してしまうのだ。

 

 

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前半のコメディ調で油断していたら、あっという間にシリアスな三角関係が始まっていて戸惑ってしまった。

バルフィという若干空想的なキャラクターを用いながらも、フィクションだから、という甘えを極力排除した良い作品だった。

☆☆☆☆

 

 


映画『バルフィ! 人生に唄えば』予告編 - YouTube

 

 

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