芋けんぴ農場

自称芋けんぴソムリエが徒然なるままに感想や日々の雑感を記します。頭の整理と長い文章を書く練習です。

【映画】LIFE!

 

Warning!  ネタバレを含みます!

 

妄想男が妄想の世界から現実世界に移行する話。

単純なストーリーながら、観終わった後に、楔のように自分の中に残り続ける映画だ。

 

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ウォルター・ミティはLIFE誌のネガ整理係として働いているが、同誌のオンライン化に伴って紙面版は廃刊になり、大規模な人員削減が行われることとなった。その最終号用にと旧知の写真家であるショーン・オコンネルから写真が送られてきた筈が、そのネガが見当たらず、本人の手元にあるのではないかとショーンを探してウォルターは旅に出る。

ウォルターには空想癖があり、同僚のシェリルを口説くために彼女が入会したという婚活サイトに登録するも、現実世界では妄想を繰り返すばかりでなかなか行動に移すことができない。

しかし、彼はショーンを探す旅の途中で妄想への逃避から脱却し、強く現実世界を生きるようになるのである。

 

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あら筋をまとめると、なんだかありがちなプロットに見えるが、この映画の何より良いところはアイスランドグリーンランドヒマラヤ山脈の風景の美しさとそれにマッチした音楽だと感じた。

特に、David BowieのGround Control to Major Tomと、


Ground Control to Major Tom - YouTube

個人的に今キテると思うバンドであるOf Monsters and MenのDirty Paws


Dirty Paws - Of Monsters and Men - YouTube

また、映画を観るまでは知らなかったのだが、Jose GonzalezのStay Alive


Jose Gonzalez - Stay Alive - YouTube

の使い方が素晴らしかった。

 

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ウォルターが旅の途上でしたことは、確かに妄想世界よりもずっと非日常である。サメに襲われたり、離陸寸前のヘリに飛び乗ったり、アイスランド火山の噴火に立ち会ったり、ヒマラヤに上ったり。

しかし、それらは切っ掛けにすぎない。逆説的ではあるが、肝心なのは現実に訪れる美しい瞬間を見逃さんとする態度なのだ。このメッセージは写真家のショーン・オコンネルについに会った時の台詞によく表れている。ショーンが目当てのユキヒョウについに対面したのを見て、ウォルターが質問するシーンだ。(括弧内は筆者による意訳)

Walter Mitty: When are you going to take it?

(ウォルター:写真、撮らないのか?)
Sean O'Connell: Sometimes I don't. If I like a moment, for me, personally, I don't like to have the distraction of the camera. I just want to stay in it.

(ショーン:たまに、こうして撮らないんだ。ある瞬間を個人的に気に入った時には、カメラに邪魔されたくないからな。その瞬間の中に身を置きたいんだ。)
Walter Mitty: Stay in it?

(ウォルター:瞬間の中に身を置く?)

Sean O'Connell: Yeah. Right there. Right here.

(ショーン:ああ、まさにその瞬間のなかにな。)

Ref: IMDb Life!(2013) quotes http://www.imdb.com/title/tt0359950/quotes

妄想することは瞬間からひとり離脱することと同義だ。LIFE!という題名にも表れているように、その時々を全力で生きろ、というのがこの映画の強く、明確なメッセージだ。

 

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そして、この映画からは自然に対する深い尊敬と賛美が受け取れる。それは映像の美しさからだけではなく、同じくショーンの台詞からもうかがえる。

Beautiful things don't ask for attentions.

Ref:同上

「美しいものは注意をねだらない」というのが直訳だが、「美しいものは注目されんと媚びない」という訳になるだろうか。つまり、美しいものは佇まいだけで既に美しい。美しい存在になりたければ、自分を飾る方法ではなく自分そのものを磨け、という風に解釈した。

 

正直、この映画を観た直後は、「今を生きろ」というメッセージは結構ありふれたものだし、それができれば苦労しないし、ストーリーも単純だし、普通の映画だったなと思った。

しかし、観終わってからふとした瞬間に、この映画のことを思い出すことが多いこと多いこと。それだけ普遍的なテーマを扱っているというだけでなく、冴えない男が自分の人生を取り戻したという設定が、常に「お前はちゃんと今を生きているのか?」と逃れられない問いを突き付けてくるからだ。

日常のルーチンを破ることは難しい。でも、確かに変われる。それを教訓としてではなく示せているから、自分の中に一抹の痛みと共に残り続けているのだと思う。

 

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ところで、妄想癖を持ちながらも、ウォルターはショーンから絶大な仕事の信頼を得ている。

この映画の原題は"The Secret life of Walter Mitty"なのだが、ウォルターの"the secret life"は、それまで黙々と仕事をしてきたウォルターの生活であり、妄想であり、今回の冒険のすべてを指している気がしてならない。

 

美しい映像や音楽とともに、ああまた明日から頑張ろうと背中を押された気分になる。

 

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