TUGUMI / 吉本ばなな
Warning! ネタバレを含みます!
大人になるってどういうことなのか、最近考えている。
年をとることが大人になることではない。でも、私は多分、小学校で自分が世界の王様のように思ってた頃よりは何かが「大人」に向かっていると思う。それは何だろう。
そんなことを、この本を読んで考えていた。
というのも、この本はタイトルになっている人物・つぐみが少し大人になる話だからだ。
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つぐみは、物語の語り手である白河まりあの従妹だ。病弱に生まれたために甘やかされた結果、『意地悪で粗野で口が悪く、わがままで甘ったれでずる賢』く育ってしまった。
つぐみの家は山本屋という旅館を営んでおり、まりあは東京の大学に進学するまでこの旅館の離れに母と一緒に住んでいた。この山本屋が店をたたむことが決まり、まりあがつぐみと山本屋で過ごす最後の夏が物語のメインである。
つぐみは恭一という青年に出会い、恋に落ちる。恭一は新参者であることから町のチンピラとひと悶着起こすのだが、物語のクライマックスで、つぐみがそのチンピラに復讐をする。彼女はその時の無理が祟って酷く衰弱するのだが、そこで「精神的な死」を迎え、まりあへの遺書で物語が閉じられる。
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つぐみは、確かに酷い子だ。まりあの部屋を荒らすことは日常茶飯事だったようだし、亡くなったお祖父さんをダシにしてまりあに悪戯を仕掛けたり、まあ色々と酷い。説明になっていないけど、とにかく酷い。
最初読んだ時は、何故周りの登場人物(まりあやつぐみのお姉さん、まりあのお父さん)がつぐみに対して穏やかで居られるのか全く解らなかったけれど、つぐみはただ純粋なだけだということを理解しているからだと思うようになった。
つぐみは、世界とつぐみ、という些か単純すぎるとも言える関係の中で生きている。病弱だから布団のなかで生きること、死ぬことについて考えを巡らせたことも少しは関係しているのだろうか。(ただし、本人は物語終盤の出来事まで死ぬことが目前に迫った感じは無かったと言っている。)やりたいことをやり、ただ、少し素直でない方法で表現をし、怒るときは全身から怒る。言い方や言葉のチョイス、表現方法が普通でないから、最初は関わりたくない感じの子、という印象を私は持ってしまった。けれど、先ほど挙げた三人はつぐみの本当のところを知っている。彼女の純真さから発せられる輝きを。
でも、その純真さはある種の幼さの裏返しでもある。世界というぼんやりとした集合体の間に様々な人を挟めば、その人たちの気持ちや利害を考えざるを得ないが、つぐみはそんなこと全くお構いなしだ。こう思い至ったとき、私は自分の小学校時代の傲慢さを思い出した。今でもそうだけど、昔は特に、私は怒ったぞ!と思えばそれを抑える方法なんか知らなくて、相手が誰だろうと怒って、たくさん喧嘩をして、まあこんなネガティブなことばかりでは無かったにせよ、とにかく自分の感情が世界の100%だった。この、自分の感情が世界の100%っていう状態がつぐみなのではないか。
けれども、このつぐみの世界の均衡は恭一の出現によって破られる。つぐみは彼に恋することで変わるのだ。(恋ってすごい!w)
「今までってさ、何がどうなっても、相手が目の前で泣きわめいてても(中略)、ほとり、って感じだったんだよね。対岸の火事を暗い川辺で見てるのさ。いつ火がおさまるかまで見えちまって、眠りそうに退屈だった。」
「だけど、今回は参加してるって感じがしてる」
恭一がつぐみの世界の参加者になったことで、彼女は前よりも少しだけ自分のこころを素直に表現するようになった。そして、物語の終盤で実際に死にかけるときは本気で死を悟ってまりあに遺書を書くわけだが、この死はつぐみと世界の二つしかアクターの居ない世界観への決別のように思える。その証拠に、つぐみは初めて死への恐怖を感じている。主体としてしか世界を見なかったから死への恐怖感も何も感じていなかったけれども、恭一を始めとして、他者の存在を自分の世界に感じるようになったから、その存在を無くすことを急に死が怖くなったのではないか。
最初の話に戻る。
大人になるということは、様々な人で自分の世界を作っていくことなのかもしれない。 勿論、誰だって自分が自分の世界の主役である。しかし、助演俳優が、エキストラが、スタッフが居てこそ一つの映画が出来上がるように、それは人生においても同じなのかもしれない。とすると、様々な人と出会い、それぞれの人生の一部を自分の人生と噛み合わせていくことで得られるものが成熟さであり、そういったプロセスを経て成熟さを増すことが大人になることではないだろうか。
最後に、好きな文を引用して終わる。そう、この抱えているものの重さによろけそうにな夜には、パートナーでも友達でもいい、誰かの人生に参加することは自分の重さを持ってもらうことでは決してないだろう、とぐるぐる考えて眠りにつく。
ひとりの人間はあらゆる段階の心を、あらゆる良きものや汚いものの混沌を抱えて、自分ひとりでその重みを支えて生きてゆくのだ。まわりにいる好きな人達になるべく親切にしたいと願いながら、ひとりで。
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