読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

芋けんぴ農場

自称芋けんぴソムリエが徒然なるままに感想や日々の雑感を記します。頭の整理と長い文章を書く練習です。

【小説】告白/湊かなえ

サスペンス ☆☆ 小説 映画化

 

 

Warning!  ネタバレを含みます!

 

 

胸糞悪い本・オブ・ザ・イヤーになることはほぼ決定だろう。

この嫌悪感が向けられているのは物語に出てくる全ての登場人物と自分、それにこの話を作った作者に対してである。

 

***

まず、これは意図的だと思うが、起こった事件に対して登場人物が罪の意識を持つことが全く無い。劇中にいくつか殺人が起こるのだが、その一つたりとも誰も反省しない。誰かが悪いのだ、自分がしたことは仕方なかったのだ、そんな姿勢が貫かれている。

愛娘を殺された教師である森口は、犯人である生徒をなじる。母親が憎いのなら母親を殺せ、なぜ私の娘を殺すんだ、と。しかし、森口はこう正論で理論武装しつつも、自身も何人もの人が巻き添えになる方法を選んで復讐を果たす。この物語に正義は無い。登場人物のほとんどが自分なりに誰かを私刑に処し、それが復讐の連鎖として連なっているだけなのだ。

だから、最後に森口にとどめの復讐をされた少年は、きっとまた彼女に復讐をするだろう。なぜならそれがこの物語のエッセンスだからだ。

私は文庫本を読んだので、巻末に映画を撮った中島監督のインタビューが載っていたのだが、そこに、彼が二人目の犯人Bの母親を「人間らしい」と評している箇所があった。だが、私は、登場人物それぞれに人間らしさとらしくなさの極値が搭載されているようだなと思った。犯人Aはその最たるものだ。母親への復讐にこだわり、粛々と状況に対処していく彼はとても人間らしくない。まるで感情が無いみたいだ。独白を読んだ後ですらそう思った。しかし、この母親への執着はなんだ。気持ちを何度も屈折させて、ひどい形でしか思いを伝えられないという彼は、まさしく中学生相応の幼さを持っていて、この二つが容易に彼の中で共存していることにある種の驚きを覚えた。それと同時に、このアンバランスにバランスが取れた状態が無ければ、私はきっと読み終えることが出来なかっただろうと感じた。この人間臭い極値だけが、私が登場人物たちを肌感覚で理解することができる唯一の手がかりだったからだ。

他のキャラクターも多かれ少なかれこんな感じだが、森口だけは別だ。彼女は、まるで何を考えているか分からない。彼女に感情が残っているかどうか定かではない。読む限りは、彼女は犯人を追いつめるためならその周囲の人間を巻き込むことも辞さない復讐マシーンでしかない。もう彼女は人間ではないのかもしれない。途中までは愛娘を失ってさぞ辛かろう、などと考えていたが、そのような描写は殆ど出てこない。彼女の言葉は、奥にとんでもないものを秘めているにも関わらず、嘘みたいにさらりと流れていってしまうのだ。上辺の上澄みだけ掬って見せられている感じ、とでもいえばいいのかな。

 

***

ここで、自分への嫌悪感である。

私は、登場人物を怖々眺めていた。彼らの行動について理解できる範囲が極めて限定的だったからである。

しかし、読み進めている間にわいてきた感情は恐怖ではなかった。

下卑た好奇心だったのだ。

 

私は劇中に登場するクラスメイトの一人だった。

彼らは、担任の娘が学校で事故死した翌日は浮足立って噂をし、犯人が同級生とわかればいじめに走る。彼らに呼応するかのように、私もワクワクしていた。このワクワクという言葉が適当な言葉であるとは思わないが、猟奇的な事件を扱うワイドショーを食い入るように見てしまうあの感じ、と言えば通じるだろうか。真面目な顔をしているふりして、面白そうだから知りたくて仕方ないーーこれは明らかにモブの心の在り方だと思った。ページをめくりながら、「これはとんでもない話だ。小さな復讐がより大きなものへと繋がっていくだろう」とわかっていながらも手を止めることなく次の展開を心待ちにしている自分を見つけて、私は自分に嫌悪したのだ。

 

***

最後に、この物語を書いた作者に対して。

いろんなタイプの作家が居て当然良いと思うし、作者自身は「普通の人」だからこの話が書けたんだと思うし、需要があるから売れたんだろうし、、、

彼女に対する色んな擁護を自分の中でしてはみたものの、やはり私は殺人をこのようにエンターテイメントとして作品にしたことに抵抗を感じざるを得ない。さっき書いたように、登場人物の徹底した贖罪意識の無さや、いつの間にか読者(私)をクラスメイトの一人にしてしまう手腕には脱帽するが、面白ければ何でもいいのか?売れれば何でもいいのか?と思ってしまう。確かにミステリーやサスペンスは殺人を使った娯楽なのだけれど、徹底的に人間の「怖いものみたさ」を利用された気がして、これには抵抗しなければいけないという指令が本能的に脳から出ている。

ただ、売れるということは読む側にも原因があるのだろう。そういう意味でも問題作である。

 

 

☆☆

 

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)