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芋けんぴ農場

自称芋けんぴソムリエが徒然なるままに感想や日々の雑感を記します。頭の整理と長い文章を書く練習です。

【小説】包帯クラブ/天童荒太

 

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Warning!    ネタバレを含みます!

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辛いことがあった、という話を聞いている時は「わかるー」って安易に言わないようにしている。いや、そういうけどさ、実際わからないでしょ、何が分かるのか説明してみ、ん?ってきっと言われた方は思うだろうなと思って。

でも、そうしているとジレンマにぶつかる。

私はせいぜい20数年しか生きていないわけで、含蓄のあるアドバイスなんかほいほい出てこない。安易な共感が許されないのならば、文字通り話を聞く以外に何もできないではないか、それでは辛いことを話してくれている相手のプラスになるようなことは何もできていない。

中には、言葉に出すことで気持ちが軽くなるという人もいるかもしれないけれど、それを話を聞く側が言うのは怠慢なのではないか…。

 

こんな問いにひとつの答えを出したのが、本書『包帯クラブ』である。

 

***

主人公の女子高生・ワラは、風変りな高校生・ディノと会ったことをきっかけに、同級生のタンシオ、その友人のギモと共に、包帯を巻く活動を始めた。

様々な人が傷を受けた場所に行き、その場所に包帯を巻く、その傷を受けた人が別の場所にいる場合にはその写真を撮影して送る、というのがこの「包帯クラブ」の活動である。

 

ワラは言う。

世界の片隅のだれかが、知ってくれている、わたしの痛み、わたしの傷を知ってくれている……だったら、わたしは、少なくとも、明日生きていけるだけの力は、貰えるんじゃないか……傲慢かもしれないけど、そんな気がした。(p.97)

彼女たちは、打ち明けられた傷に対して包帯を巻くことで、その傷が確かに存在することを可視化して認める。傷が傷として存在することを認めることによって、その傷の持ち主の心のつかえを和らげることが出来るのではないか、というわけである。

人に傷を与えうるすべてのもの、例えば「理不尽」、たとえば「孤独や孤立」、たとえば「差別」。他人から見ればどんなに些細なものでも、それが傷として存在する限り、その通りに認識する。

傷は人の生きる気力を奪いうるものだから、そうやって傷を認め、その痛みを和らげることで消極的にそういった傷の力と戦う…というのがこのクラブの本質であるようだ。

そうやって傷を受け・(他人に包帯を巻かれながらも)乗り越えることを繰り返しながら、こんな苦しいリングに上がり続けられるのは、そこに愛があるからなのではないか、という趣旨で物語は閉じられる。

 

***

上記のように纏めると、とても優しい話のようにみえるが、実際に言っていることはかなりマッチョであるように感じた。

傷をそれぞれ固有のものと認めることは、その傷(経験)を相対化しないことである。それはつまり、よくある「自分よりもっと大変な人がいるんだから…」と自分を誤魔化すことはできず、さらに、他人からも「自分が何かできるとは思わないけど、せめて労りの言葉だけはかけるね」という態度で接されることを前提とすることを意味しているからである。

自分の傷が自分に固有のものであるならば、他人のそれも同様である。だから、自分が傷ついた時に「私は世界一不幸な人間なの。あなたよりずっと大変な目にあったの、話を聞いて慰めてちょうだい」なんて同情を買うことは許されないのだ。

つまり、この本の結論を突き詰めると、自分の傷は自分で乗り越えろ、そして、他人の傷も認めてその人が明日を生きる理由を作って行こう…となる。これって、かなり強い精神力が求められると思うのは私だけだろうか。

 

***

だから、私は、余裕が無いときには忘れるのを待ってもいいし、毎日の中に楽しいことを見つけて視線をそらしてもいいと思う。

はっきりとはまだ分からないけれど、傷と一緒に生きることも模索していいのかもしれない。この本の冒頭では、

わたしのなかから、いろいろ大切なものが失われている。

(中略)

これは、戦わないかたちで、自分たちの大切なものを守ることにした、世界の片隅の、ある小さなクラブの記録 (p.5)

とある。戦わないかたち、とはあるが、それは積極的な防衛策(例えば理不尽に対して抗議する、など)を取らないことであり、傷は和らげるべきものとして描かれている。

しかし、数年経って別の視点を得ることで、当時何が起こったかを理解することもあるかもしれない。本書で述べられているようなマッチョな精神を持つ余裕が無い時には、傷を自分で乗り越えられずに、より苦しくなってしまうかもしれない、そんな時には、時間が経って、いろんな人に頼りまくったり忘れたりできる機会を待ってもいいんじゃないか。

 

一方で、もしも傷を打ち明けられたら、その傷を持つ人が望むものをあげても良いんじゃないかと思う。同情してほしければ同情するし、ただ話しを聞いてほしければ聞くし、批判をしたいのなら、特に止めずに批判を聞くと思う。聞き手が、こうあらねばならないという理想に拘るのではなく、取りあえず「いま生きること」を続けるために、短期的に一番楽になる方法を探し続けることも時には必要なんじゃないか、そんなことを考えていた。

 

***

個人的には、筆者が高校生当時の主人公の言葉づかいで思想を語らせていたのが若干分かりにくく、まとめるのに少し時間がかかった。

大変なときも他人に優しく、というメッセージはしかと受け取った。

 

 

☆☆☆

 

 

包帯クラブ (ちくまプリマー新書)

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