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芋けんぴ農場

自称芋けんぴソムリエが徒然なるままに感想や日々の雑感を記します。頭の整理と長い文章を書く練習です。

【書籍】友情/武者小路実篤

☆☆☆☆ 恋愛系 小説 青春 日本文学 文学

 

Warning!  ネタバレを含みます!

 

 

あああああああああああかゆい、かゆいぞおおおおおおおおおおお!!!!!

って感じで話が進んでいく。

というのも、非モテ男が恋に落ちて友人に相談していたら、片思い相手が友人とくっついてしまう話なのだ。

 

***

主人公の野島が非モテ男、友人が大宮、片思い相手が杉子という名前なのだが、特に野島がひどい。

野島は駆け出しの劇作家でそんなに売れてはいないのだが、杉子に恋してからは四六時中杉子のことを考えている。その様子が実に気持ち悪い。

彼は杉子と一軒家をもつことを考えた。杉子が自分一人にたより、自分一人に媚び、自分一人のために笑顔をし、(中略)……、彼はそんなことを考えると天国にいるよりもなお幸福になれるような気がした。その時、自分は精神界の帝王になり、杉子は女王になる。

野島は杉子とうまくやれそうだとかいう段階以前で、一目惚れしてからも遠くからうじうじ眺めているばかりで、大して進歩もないままに妄想している。それが細かく語られていて「ああああ痒い!かゆいかゆい!!」と苦笑いするしかなかった。(だいたい精神界の帝王ってなんぞ笑)

 

だが、こんな野島とは裏腹に、杉子はどんどん大宮のことを好きになってしまう。この話の語り手はずっと野島なのだが、ここまで杉子の様子を見ていれば彼女の気持ちもわかるだろうにと思う…しかし、野島は、決定打が打たれるまでずっと自分に不利な情報を徹底してスルーしている。

一方の大宮はとっくの昔から気づいていて、野島を気遣ってわざと杉子に冷淡に接したり、挙句の果てにはパリに発ってしまう。自分が居なくなれば杉子は野島を見るだろう、と。野島は、大宮が発つ時の杉子の様子で悟ることになるが、それでも大宮が居なくなったことで、まだ望みがあるだろうと猛アプローチを開始し、しまいには結婚申込みまでするのだが、すべて断られる。

 

それから一年後、パリに居る大宮からの一通の手紙で全てが明らかになる。手紙には、既に作家として成功しつつある大宮を慕う人々の同人誌を見ろと書いてあった。そこには、大宮と杉子がくっつく顛末が詳細に書かれていた。その同人誌には大宮と杉子の間で交わされた手紙が載っていて、読み手には三人の関係があからさまにわかる形になっていた。つまり野島は公開処刑されたことになる笑

その同人誌に掲載された手紙では、杉子が手紙で熱心に大宮を口説いていたことが明らかになるのである。その時の杉子の言葉もひどい。

私は野島さまの妻には死んでもならないつもりでおります。(中略)兄は少し勧めてもくれました。ですが私は、どうしても野島様のわきには一時間以上はいたくないのです。なぜだか自分にはわかりません。

こんなことを他人に言われたと分かったら卒倒すると思う、私。

 

こんな調子で杉子は大宮を口説き落とし、結婚を前提に渡仏したのである。

この物語唯一の良心である大宮は、実は野島よりも前に杉子に惚れていたにも拘わらず、野島から恋心を打ち明けられてしまったので自らは身を引こうと決意した男前である。だが、杉子の手紙にほだされて、結局は杉子と結婚することを決める。

 

***

最初の方で野島のことが気持ち悪いなあと思ったのは、ひとえに彼が自分のことしか考えていないからである。たまに「自分は杉子の外見ではなく魂を愛していて、杉子の幸せを祈っている」のような内容の台詞が出てくるのだが、それも表面的な言葉遊びにすぎないことが読んでいるとよく分かる。野島のそのような態度を見透かしたかのように、

恋が盲目というのは、相手を自分の都合のいいように見すぎることを意味するのだ。 

 という友人による箴言が開始早々に出てきて、野島の恋がうまくいかないことを予感させる。しかし、その後も野島は順調に「理想の杉子」に恋をする。そして、物語終盤で、まるで答え合わせをするかのように杉子が書くのである。

野島さまは私というものをそっちのけにして勝手に私を人間ばなれしたものに築きあげて、そして勝手にそれを讃美していらっしゃるのです。

 

大宮が杉子を避けていたことを考えると、杉子自身も大宮という虚像を自分の中に作り上げているだけなので言っていることは完全に自家撞着であるし、手紙の中で

あなたのこどもを生むために(こんな言葉をかくことをお許し下さい)ばかりこの世に生きている女です。

 と書いてしまう程度には頭が沸いている。その他にも、自分の写真を手紙に同封したり、手を変え言葉を変え、大宮の気を引くのに必死だ。でも、推測だけれども、杉子は大宮が自分のことを好いていることを知っていたからここまで押したのではないか、という気がする。大宮は、杉子と目が合うことが多くなったと書いているし。つまり、杉子と野島では勝算が全く違ったのではないかと。だから、同じ幻に恋している者同士でも、結果が違ってしまったのではないかなー。

 

***

という、なんとも残酷な話であったけれど、最後の野島の台詞がとても男前だった。野島は、大宮がパリに行くことを聞いて、ああ恋敵予備軍が消えたと喜んでしまうような人間だったのだけれど、きっとこの件をきっかけに男前な性格になっていくであろうことを予感させた台詞だった。

 

非モテのリアルな失恋小説、とても面白かったです。

☆☆☆☆

 

 

友情 (新潮文庫)

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