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芋けんぴ農場

自称芋けんぴソムリエが徒然なるままに感想や日々の雑感を記します。頭の整理と長い文章を書く練習です。

野心のすすめ/林真理子

Warning!  内容の核心部に触れています!

 

最近は更新が滞っていたからどんどん行きます!!

悟り世代に向けて書かれたのにバブル世代にしか届かない稀有な本である。

著者の林真理子さんという方は、昔何かと世間を騒がせた人だったらしいということすらこの本で知った程度の前提知識で読み始めたのだが、私はこの人の本は一生読まないだろうなと思わざるを得なかった。

 

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著者は、様々な逆境を圧倒的な野心でもって克服し、成功をつかんできた。中学校でいじめられた時は勉強したり先生にゴマをすったりして県内一の進学校に入学したり、有名になりたくて、コピーライターとして成功したくて、誰よりも目立つ格好で糸井重里さんのコピーライター養成塾に通ったり。

そんな著者からすると、現代の若者の在り方は野心が足りず、目標値を低めに設定しているために成長する機会が奪われているのだという。そのため、著者の成功体験をこの本につづることでそういった人たちに発破をかけたい、というのが本書の目的だという。

 

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いや、ここまでは良いのだ。

この本で何が受け付けなかったかと言われれば、著者にとっての「成功」の定義だ。

著者の成功とは、社会的な地位とお金を手に入れることの二つだ。本書のなかでは、繰り返し、お金がないことがどんなに惨めか語られる。そして、それら、地位と金を手に入れた者が「勝者」であり「一流」であるということが、さも当然でしょ?というスタンスで書かれた文が山ほど出てくる。

私が最近の人を見ていてとても心配なのは、自分の将来を具体的に思い描く想像力が致命的に欠けているのではないかということです。

(中略)

より具体的にいえば、「このまま一生ユニクロを着て、松屋で食べてればオッケーじゃん」という考え方です。

(中略)

四十代、五十代になって、毎日が全身ユニクロでは、惨めこの上ないわけです。年齢を重ねると、素材の高級感があるものをたとえ一点でもいいから身につけていないと、単なる哀愁の中高年になってしまう。

この文を読んだとき、私はバスの中で「おおきなお世話じゃーー!!!」と叫びそうになった。 この人がやっていることは、人間を属性値でタイプ分けし、この人はオッケー、この人はダメと選別することと同値であり、それを自分に許すとは何様なのか?と苛立ちを禁じ得なかった。

人生を語る際の基本姿勢は「みんなちがってみんないい」であり、自分はこうだったよ、以上のものを他人に言うことは出来ないし、許されないと思っている。それを簡単に踏み越えて、自分の結婚式のドレスはベルサーチだったとか、もうエコノミークラスには乗れないだとか、ママチャリで髪を振り乱して子供の送り迎えしている人はかわいそうだとかいう価値観をもとに、ほら、だから野心をもってもっと頑張りなさいよ、などと言われてもこっちが困るのだ。

著者の目には、「今どきの若者」は欲望や努力が足りないように見えるのかもしれない。しかし、それは著者のような価値観を知ったうえで意図的に選んでいるのかもしれない。新しい幸せの形を見つけたのかもしれない。もっとそういった可能性にも目を向けて欲しかった。これではただの押し売りだ。

大金持ちになってベルサーチのドレスを結婚式で来て飛行機を使うときにはいつでもビジネスクラスがいいとか、私はそんなことはどうでもいい。

自分がやりたいと思うことを、自分の人生を使って実現することが私の幸せであり、目標であり、そのように自分の内部を見つめながら、戦いながら、目標一点を見つめて努力する人が私にとっての一流なのであって、決して社会的評価を得るために四苦八苦する人ではない。

 

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一応言っておくと、著者も死に物狂いの努力をしたと書いてある。ただ、その目標が自分の外面に向いているのが受け入れられないだけだ。もちろん、これは私の一つの価値観にすぎず、世の中にはこの著者のような価値観を持つひとが居ることも知識としては知っている。だが、どうかそれを押し付けないでほしい。私は私の思うように生きるし、そこにあれがダメだ、これがダメだと言われても、何をダメと思うかが違うのだから話がかみ合う筈が無いのだ。

ここまで書いて、私もまた、自分の価値観を強固な壁のように積み上げてほかの価値観を否定する者であることに気付く。

教養とは、自分とは別の価値観も許容することだ。

(樋口裕一  頭がいい人、悪い人の話し方)

まったく異なる価値観を前に、自分がどういう反応を示すのかを試すリトマス試験紙には最適な本である。

私ももっと「教養ある」人間になりたいです、はい。

 

 

 

野心のすすめ (講談社現代新書)

野心のすすめ (講談社現代新書)