読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

芋けんぴ農場

自称芋けんぴソムリエが徒然なるままに感想や日々の雑感を記します。頭の整理と長い文章を書く練習です。

ウエハースの椅子/江國香織

小説 恋愛系 ☆☆☆☆

Warning! ネタバレを含みます!

 

わかるようでわからない、手が届きそうで届かない。

冷静と情熱のあいだ』を読んだ時もそう感じた。

もしかしたら、あと5歳、もしくは10歳くらい年をとったら、江國香織の世界を完全に理解し、共感したり反発したりできるのかもしれない。というのも、私はこの『ウエハースの椅子』を高校生の終わりだか大学生の初めだか、つまり5年くらい前に読んでいて、その時は本気で、書いてあることが全く理解できなかったからだ。年を重ねて、相応に考えることができるようになったから、少し進歩した…と信じたい。だから、或る意味、彼女の小説は自分の成熟度合の指標になりそうだ。その「成熟」が自分の望むベクトルのものであるかどうかは別として。

 

さて、この話の主題は、孤独と絶望についてである。

主人公の絵描きは、今の彼氏と「会ったときから、すでに恋をしていた」。彼には妻子があるのだが、それでも彼らは互いに恋に落ち、一緒に居る時間をこの上なく満ち足りていると感じる。しかし、主人公は幼少の頃から目の前の世界になじめない。その様子を、主人公は「紅茶にそえられた、使われない角砂糖」のようだと感じている。そこにあることは望まれているのに、実際に使われることが無いのだ。彼女は不愉快な現実世界と自分を切り離すことで自分を保ち、その分孤独に苛まれ、しかしどうにかやりすごして生きてきた。

そんな主人公は恋に落ち、絶望する。彼氏との関係は満ち足りたものだ。しかし、彼女は彼氏と共に現実世界を生きることができない。それは恋人との「閉じ込められた」世界なのだ。この関係は限りなく均衡している。これ以上望むべくものもない。だから彼女は絶望する。彼には妻子があり、彼女は永遠に現在の状態以上に彼との関係を進展させられない。形式的にも、精神的にも。ただ会って満ち足りてしまうから、しかし、幼少から抱えた孤独感によって、目の前の世界に加われないことに絶望するのだ。おそらく、彼女は、彼女の妹がそうであるように、この世に唯一の存在として恋人から認められたいのだろう。しかし、それが叶わないことを知っているから、緩やかに自殺を図るのである。

一方で、かつての飼い犬のジュリアンのように、孤独を受け入れ、愛情を信じ、しかしそれを過信せず崇高に死んでいくことが主人公の考える理想である。しかし、彼女はそうなれない。それまでは世界と別の場所で生きていると思っていたのに、人を好きになることで現実世界への参加を望むようになったからだ。それに、だいいち彼女はジュリアンのように愛情の扱い方がわからない。手に入らない現実世界での「幸福」は「ウエハースの椅子」のようだと表現されている。「目の前にあるのに、決して腰をおろせない。」

 

この物語では、彼女の孤独感の原因は恋人の環境にあるように思われるけれど、実際にはどうだろう。仮に彼が独身だとしても、彼女は同じように孤独だと思うのではないだろうか。彼女には、ジュリアンのように、孤独を受け入れる以外に選択肢はないのだ。

強い光がより強い影をつくるように、深い関係を望めば、その分相手がいない時間により強い寂しさを感じる。友人関係でもそうだけれど、特に恋愛の方が一対一の関係として、特別な存在だと認められることができるから、より孤独に感じるということではないかな。家族(この主人公の場合は、父親)にある種屈折した思いを抱えているのなら、なおさら。でも、結局、孤独を抱えて生きていくんだって決意して生きていかないと、この主人公のように絶望することになるのだと思う。孤独を抱えながら、愛情を受け入れ、過信せず、尊厳を保ちながら死にむかってゆく。それはつまり、孤独を癒すためではなく、ただ愛情のみを起点にして関係がつながっていく、ということ。きっと恋愛だけじゃなくて、友人同士でも、家族でもそれは変わらない。それってつまりどういう状態なんだろう。

 

唐突だけど、私は岡本太郎の言葉が好きで、その一つに次のようなものがある。

さまざまな条件のなかで、それぞれ彩りは違うけれど、人間はみんな孤独なんだ。そして、何かの折に、孤独だなあ、と言いようのない寂しさを噛みしめる。
なぜ寂しいんだろうか。
人間はみんな孤りで生まれてきたんだし、結局は孤りで死んでいくしかない。それが常態であるならば、寂しいはずなんかないのに。
ぼくは、それは人間はひとりだけでは全体になりえないからだと思う。
個体は完結しているように見える。だが実はそうではないんだ。

その一方で、

孤独感にたじろいじゃって、逃避してしまっている、ごまかしてしまっているところに虚しさがあるんで、逃げない、ごまかさないで、積極的に孤独をつらぬけば、逆に人間的にひらいて、みんなと一体になることができる。

孤独は全員が持っているもので、孤独だから関係を持ちたがる。でも、関係を結ぶことで孤独を埋めるのではなく、孤独であることを認め、孤独感を共有する…

私には、それがどんな状態なのか、何をすればそうなれるのか、どれくらい強くなければいけないのか、まだわからない。でも、そうなれたら、そういう関係を誰かと紡ぐことができたら、とてつもなく素敵だろうということだけはわかる。

 

「会いたくて会いたくて震える~~」とか言ってるうちはまだまだだってことだね☆

分類としては恋愛小説なんだろうけど、生き方全般についての話だと思う。下手な言葉で内容を汚したくないので、ここでとどめる。5年後にまた読みます。

☆☆☆☆

 

 

 

 

ウエハースの椅子 (新潮文庫)

ウエハースの椅子 (新潮文庫)

 

 

 

強く生きる言葉

強く生きる言葉